浜田賞基金設立の趣意書

2001年11月28日
広田 伊蘇夫

 本学会の前身、病院精神医学懇話会以来の会員、浜田 晋氏から地域精神医療と精神病院の変革を期待して、本学会に一千万円の寄付の申し出があった。理事会としては感謝の念を込めてこの申し出を受けることとした。

 浜田 晋氏の足跡については、あらためて詳しく紹介することもない。精神科医としての浜田氏の前半は神経病理学と精神分裂病者の行動学にエネルギーを集中した日々であった。神経病理学者として、氏はフランスの神経病理学誌にも紹介されている[日本脳炎の神経病理]の論文で日本精神神経学会賞を受賞されている。論文[分裂病と“遊び”]では、分裂病者の“固着性”に注目し、作業療法の方法論に示唆を提示された。また当時、ライシャワー事件を契機として、精神衛生法を精神障害者の治安的取締りに舵を切らんとした国の方針に対し、都立松沢病院の同志と共に、夜に夜をついで断固反対の流れを全国的に作り上げたひとりであった。

 浜田氏の足跡の後半は、都立松沢病院における精神科医としての臨床経験に根ざすものである。たとえそれが不十分であるとしても、病者の生活に寄り添わない限り、分裂病者の心を癒すことはできない、これが浜田氏の情念として燃え上がった。かくて、浜田氏は大都市、東京の下町に立ち、請われるままに訪問診療に身を粉にする日々を送った。こうした所業はわが国の農村医学の創始者、若月俊一氏に評価され、精神科医としては初めて[若月賞]の受賞となった。

 浜田氏は殊更に本学会への思い入れが強く、自らの苦難のなかから精神病院と地域精神医療の変革と発展を期待し続けられ、今回の申し出となったのである。理事会としては浜田氏の御好意をお受けし、[浜田賞基金]を設立し、精神医療の現状の充実、そしてまたその変革に向かい、地道な努力をし続ける会員個人または会員が関わる団体を対象として、各年次総会においてささやかな賞を贈って、顕彰することとした。ここに理事会として会員諸氏の御理解と御協力を願うものである。

基金寄贈の主旨

2001年6月1日
浜田 晋

 私は75歳になりました。昭和43年頃からはじめた私の地域活動(東京下町が中心)も30年を過ぎました。それはほとんど賽の河原に石を積むような仕事で挫折体験の連続といっていいのかもしれません。しかし当初精神病院入院中心主義の中にあって、精一杯やったというわずかの自負もあります。孤独な闘いでした。
 しかし多くの患者さんやご家族や保健婦さんたちによって支えられ、今日まで生きてこられました。その記録はその都度発表してきました。最近「私の精神分裂病論」(医学書院、平成13年)では、昭和45年から47年までの私の活動を日記抄として表現しました。不条理な地域の中にあって、精神医療を展開することがいかに困難であるのかを具体的に述べたものです。20世紀末一人の精神科医が東京という巨大都市で生きたあかしとしました。これは決して私一人の活動ではありません。日本全国で「見えない敵」と闘っておられる多くの人々が地域医療・福祉・保健活動を支えておられると思います。私にはもう余力がありません。今出来ることは微財を投じて日本病院・地域精神医学会にその方々の労をねぎらうお願いをすることです。私たちが守ってきた20世紀の精神医療が21世紀に少しでも光がさすことを念じつつ、日本病院・地域精神医学会に基金を寄贈し、その運用を委託するものです。

   

 つきましては、私のお願いなのですが、島成郎(故人)、金松直也の両会員に、本年行われる第44回総会の場で賞を贈ってその功績を顕彰したいと考えています。島成郎君は、沖縄の地で保健婦さんや役場の人たちを見事にまとめあげ「地域医学」の原型を構築されました。金松君は木曽で孤軍奮闘、長期にわたってその地を守りぬき地の塩となられました。両君こそ第1回の受賞者にふさわしい実践者であり、あえて推薦させて頂きます。

   

 以後の基金の運用、授賞者の選考等については学会にすべてお任せ致します。
 以上、私の主旨をご理解の上、宜しくお取計らい下さるようお願いします。

浜田賞歴年受賞者一覧

(2001年設立)
※敬称略

  • 茨城大会島  成郎(医師)
  • 仙台総会大沼 雄子(保健師)
  • 島根総会吉田 初江(元保健師・精神衛生相談員)
  • 神戸総会生村 吾郎(医師)
  • 福岡総会藤島 芙美子・菅野 康子(施設長)
  • 東京総会金子 鮎子・小林 紀子・上野 容子
  • 京都総会野地 芳雄(元作業所所長)
  • 岡山総会和邇 秀浩(医師)、吉沢  毅(当事者)
  • 和歌山総会伊藤 静美(施設長)、東  雄司(医師)
  • 東京総会田尾 有樹子(PSW)、伊澤 雄一(施設長)
  • 沖縄総会宮里 恵美子(保健師)
  • 名古屋総会長坂 成生(事業主)
  • 札幌総会安達 克己(看護・作業療法士)、NPO法人精神障害者回復者クラブすみれ会
  • 仙台総会伊藤 芳子(保健師)、矢吹 セツ子(保健師)
  • 多摩総会東京都地域精神医療業務研究会
  • 練馬総会特定非営利活動法人つくりっこの家、日本カナダ国際精神保健交流協議会
  • 松本総会社会福祉法人 絆の会、社会福祉法人 希望の虹
  • 東京大会特定非営利活動法人 こらーるたいとう
  • 沖縄大会公益社団法人沖縄県精神保健福祉会連合会
  • 岡山大会新型コロナ感染拡大防止のため延期止
  • 岡山大会「そよかぜサロン」代表者浅野美恵子
    NPO法人岡山マインド「こころ」代表理事・一般社団法人お互いさま・まびラボ 副代表理事 多田伸志
  • 京都大会特定非営利活動法人京都府断酒連合会 理事長 栗山 一郎