精神保健福祉情報

精神保健福祉法第41条の指針に関する見解

2014年11月1日
日本病院・地域精神医学会理事会
理事長 金杉 和夫

 厚生労働省は2014年3月7日に、精神保健福祉法第41条の「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」(以下、指針と略記する)を厚生労働大臣告示として公表し、この指針は4月1日から適用された。  日本病院・地域精神医学会は指針を含め精神保健福祉法の改正と運用に重大な関心をもってきた。指針についてもいくつかの問題点が存在するので、本学会の見解を述べる。

 まずこの指針が精神保健福祉法の枠内に止まることにより、精神科医療が一般医療とは異なる特殊なものであることを追認し、かつ固定化するものとなってしまう恐れがあるという問題がある。指針に盛り込まれた個々の項目の多くは実現されるべき課題であろう。しかし、それは医療計画や障害福祉計画のなかに落とし込むことによって、一般医療の施策や他障害の福祉施策と同等の水準においてなされるべきである。そして、それぞれの現場の医療行為等はしかるべき指標によって評価され、それが当事者や地域住民に参照可能な情報として公開されるべきである。

指針が定める事項として以下の4項目があげられている。

  1. 精神病床の機能分化に関する事項
  2. 精神障害者の居宅等における保健医療サービス及び福祉サービスの提供に関する事項
  3. 精神障害者に対する医療の提供に当たって医療従事者と保健・福祉従事者の連携に関する事項
  4. その他の事項

 指針の第1にあげられている機能分化の項目のなかの「基本的な方向性」において、「病床を転換することの可否を含む具体的な方策」云々との文言が含まれている。これは病床転換型居住施設のことを指していると思われるが、この問題に関しては本学会もすでに見解を表明したところである。
 指針は、精神科病床の機能分化の形態を「急性期」「入院期間が1年未満」「重度かつ慢性」「それ以外の1年以上の長期」の4つに分類している。「急性期」では「医師及び看護職員の配置を一般病床と同等とすることを目指す」としているが、「同等とする」と断定はされない。それ以外の病床区分においては、多職種チームによる医療の提供や退院促進が唱われているが、職員配置の具体的な数値目標は記されていない。これでは問題の多い「医療法特例」規定を固定化することになる恐れがある。
 合併症を有する精神障害者の医療の確保も機能分化の1項目としてあげられているが、総合病院の精神科自体は増加傾向にあるものの、精神病床を有する総合病院の減少傾向には歯止めがかかっていない。また医療法施行規則は精神病者の一般病室への入院を許していない。医療法施行規則のこの条文の削除は急務である。
 指針の第2項以下では、居宅サービスにおけるアウトリーチや多職種連携や地域の諸機関との連携について述べられている。これらは精神科医療独自のものとは言い難く、一般医療と同等の課題であろう。また、福祉サービスの提供についても言及されているが、障害者総合支援法のなかで実行する事項であろう。障害者総合支援法は自治体に障害福祉計画の策定を義務づけている。
 第2項では精神科救急体制の整備についても述べられている。精神科救急医療機関についてのみ「評価指標の導入」が強いられている。他の機能型の医療機関や病床においては評価指標の導入は言及されていない。しかしこの評価指標は、当事者等への情報公開を義務づけたものではない。本来ならば他の機能型の病床においても評価指標が導入され、それに基づいた結果が自治体に報告され当事者等に公開されるべきであろう。
 第4のその他の項において、医療計画や障害福祉計画や介護保険計画等を踏まえながら、必要な医療を提供できる体制を確保するとしている。しかし、具体的な方策や計画が示されているわけではない。

 指針は良質な医療の提供の確保を目指しているはずであるが、一般医療の動向や精神科医療の現状と遊離しており、かつ具体的な日程や数値目標をあげていない。さらに精神医療に関する情報公開も不十分である。これでは実効性の乏しいものになる。

以上